人身事故の賠償の考え方
傷害の賠償の計算
「小学生の娘が事故でケガをして入院40日
通院延べ3ヶ月(実日数30日)要しました。
いったいいくらになるのでしょうか?」
「入院と通院の治療関係費相当全額 + 慰謝料などの合計額になります。
治療費は相手方が直接病院に払ったとして ケースによりますが
残り約100~200万円請求できる余地はあります。」
治療期間中の損害
・治療関係費 ・・・ 雑費、交通費、付添費を含む
・ 休業損害 ・・・ 入院・通院して欠勤した分の減収分
・・・・・・・・・・ 事故前の収入を基礎とします
・ 入通院慰謝料 ・・・ 精神的 肉体的苦痛に伴う金銭評価
治療終了後の損害
・逸失利益 ・・・ 働けなくなったことによる将来の減収分
・後遺症の慰謝料 ・・・ 精神的 肉体的苦痛に伴う将来の金銭評価
休業損害とは
休業損害 … 原則 事故前の収入を基礎とします
自賠責
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給与所得者 事故前3ヶ月の収入÷90×認定休業日数事業所得者 過去1年間の収入額-必要経費÷365日×認定休業日数 |
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弁護士会基準 |
裁判例などをもとに損害額が計算される |
慰謝料について
自賠責
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1日あたり4,300円×日数(治療期間で計算される) |
弁護士会基準 |
ある程度の幅の中で定額化されている ( 額については最も高いと思われる )入院 1ヶ月…53万 2ヶ月…101万通院 1ヶ月…28万 2ヶ月…52万注)むち打ち症の場合はこの金額より低額になることがあります |
後遺障害逸失利益
1年間の基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
現在収入がない人や家事従事者、学生や幼児については全年齢平均給与額の年相当額とするようです
2020年4月一部改正
後遺障害等級 |
弁護士会基準 |
自賠責保険基準 |
第1級 |
2800万円 |
1150万円 |
第2級 |
2370万円 |
998万円 |
第3級 |
1990万円 |
861万円 |
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第12級 |
290万円 |
94万円 |
第13級 |
180万円 |
57万円 |
第14級 |
110万円 |
32万円 |
◇質問者 能登さん◇
「サラリーマン40歳の主人が交通事故で後遺症が残り、第10級に認定されました。この場合の逸失利益の計算の仕方を教えて下さい。年収は600万円です。」
◇弁護士 金沢さん◇
10級による労働能力喪失率は27%、40歳に対するライプニッツ係数は14.643
600万円 × 0.27 × 14.643 = 2372万1660円
「この他に慰謝料も請求できます。今回金沢さんは入通院の分と後遺障害の分の2つの慰謝料を足して相手方に請求できます。
最終的に 治療費関係 + 治療期間の休業損害 + 後遺障害の逸失利益 + 入通院・後遺障害慰謝料を足したものが請求額になります。
ただこの場合も、自賠責基準ではなく弁護士会基準で計算し、請求したいものです」
損害は大きく3つに分かれます。
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A)積極損害
事故により実際生じた費用[ 治療費・交通費・付添看護費・葬儀費 ]
B)消極損害
本来得られたはずの利益[ 休業損害・逸失利益 ]
C)慰謝料
精神的苦痛に伴う金額
◇質問者 加賀さん◇
「 たとえば重度のケガの為に入院し、治療の甲斐なく亡くなった場合は、どのような項目が請求できるのでしょうか? 」
◇回答者 石川さん◇
「 傷害の治療費・看護料・慰謝料と、死亡の葬儀費・逸失利益・慰謝料などの項目の合計が請求できます。 」
傷害の賠償に関しての考え方
◇質問者 金沢さん◇
「 実際に交通事故で入院・通院することになった場合には、どういう費用が損害になりますか?」
◇回答者 石川さん◇
「 まず入院・通院の治療費、それと治療に付随する看護や雑費、交通費も損害にあたります。また入院がなければ得られたであろう給料や報酬、そして精神的苦痛に対する慰謝料をそれぞれを足して請求することができます。示談を始める前に、事前におおよその損害賠償額の相場を知っておく必要があります。」
慰謝料に関しての考え方
事故によって被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われる賠償額が「 慰謝料 」です。
この慰謝料について考えましょう。
慰謝料の算定の基準については、3通りの基準があります。
◇自賠責基準◇
入通院慰謝料 1日あたり 4,300円です。
例えば 入院日数 30日 通院日数 15日 合計 45日
治療期間が60日の場合
入院日数と通院日数の合計は45日で、その2倍である90日と治療期間の60日を比較して、少ない方が治療日数として認められます。
従ってこの場合の慰謝料は 4,300円 × 60日 = 258,000円です。
※重要
総治療日数と「 実入通院日数 × 2倍 」の少ない方 × 4,300円
◇任意保険基準◇
明確になっていません。❓
◇弁護士基準 ( 裁判所基準 )◇
入院日数と通院日数から計算すると、およそ47万円から88万円の間での請求になります。
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後遺症の損害の考え方
ケガで入院し、手術や治療を一通り施して、医師から「 完治 」ではなく「 症状固定 」と判断された時は、傷害から後遺障害の損害賠償に移ります。
後遺障害とは…
事故により治療を施してもそれ以上改善が見込めず またそれ以降身体機能に障害が残るであろう状態です。
加害者側の保険会社から、症状固定の打診をうけたり、治療費の打ち切りが伝えられると、それ以降は自身の負担で・・・と、とても納得いかない。
しかし症状固定を決めるのは主治医が診断して、主治医と患者が相談して決めるものです。なので加害者側は決めることができません。
そして後遺障害は14等級に分類され、ひとりひとりの症状を、その項目にあてはめていくのです。
この等級は後遺障害請求の基礎となるので、適正な等級認定を受ける必要があります。
自賠責保険では、傷害保険金( 支払限度額120万円 )とは別に、後遺障害の等級に応じて保険金が支払われます。
等級認定のほとんどが書類申請なので、医師に症状をはっきり伝えるためにも、自分で事前に、後遺障害等級表で確認したほうがいいでしょう。
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後遺症から発生する主な積極損害
(1)機具等の購入費
義足、車椅子、入れ歯etcなど、日常生活を送る上で必要とされる物を実費で請求できます。
またそれらの機具は半永久的に使用できるものが少ないため、交換・買い替えの必要が認められるものについては、その分も請求できます。
( ただし、将来の利息による増額分を控除する必要があります )
(2)将来かかると予想できる費用
症状により付添看護費などが請求できます。( 被害者が寝たきりの場合は、平均余命までの間 )
(3)家屋・自動車などの改造費
後遺症の程度に応じて、家の改築( バリアフリーや車椅子用 )や自動車に特殊ブレーキやアクセルの改造など。
後遺障害と認定された被害者は、治療期間中に認められる「 休業損害 」がなくなる代わりに、それ以降は、 将来の労働能力の低下に対する損害として「 後遺症による逸失利益 」を加害者に請求することになります。
※後遺症がのこると、以前と同じように働けなくなる場合が考えられるからです。
◇後遺症の逸失利益の計算方法◇
年収 × 労働能力の喪失率 × 労働能力喪失期間に対応のライプニッツ係数
・年収・・・事故前の収入。幼児や18歳未満の学生、または高齢者は「 賃金センサス 」の男女別全年齢平均賃金に基づくことが多い。
・労働能力の喪失率・・・「 後遺傷害等級表 」の労働能力喪失率に準じた率とするが、他の要素も兼ね合わせて決まります。
・労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数・・・就労上限年齢67歳 マイナス 被害者の年齢の年数を出し、将来の減収分を一括請求するため、その期間に対応するライプニッツ係数を掛けて控除する。
◇後遺症での慰謝料の計算方法◇
自賠責基準と日弁連基準の慰謝料の比較
後遺障害等級 |
自賠責基準 |
日弁連基準 |
第1級 |
1150万円 |
2700~3100万円 |
第2級 |
998万円 |
2300~2700万円 |
: |
: |
: |
第13級 |
57万円 |
160~190万円 |
第14級 |
32万円 |
90~120万円 |
慰謝料を計算するために、目安とした基準ができています。
注意したいのは、日弁連基準の数字を参考にして、根拠にすることです。
重い後遺障害のときは、本人とは別の近親者の慰謝料も請求できるかもしれません。
むちうち症とは正式には「 頚椎捻挫 」( けいついねんざ )といいます。むち打ち症でも後遺障害等級が認められることがあるので、首痛・頭痛・しびれ・めまい・肩こりなど神経症状を覚えるならば、医師と相談して等級の申請を行うことも正当な権利です。
症状によっては12級または、14級に認定されます。
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死亡時の損害の考え方
治療後に亡くなった場合は、傷害の賠償全額を、死亡の賠償額にプラスして同時請求します。
死亡事故による損害
1)積極損害 |
葬儀関係費 など |
2)消極損害 |
死亡による遺失利益 |
3)慰謝料 |
死亡した本人と遺族に対する慰謝料 |
1) 葬儀関係費
自賠責基準と弁護士会基準とは、相場がちがうので注意が必要です。
2020年4月改正
自賠責基準 |
100万円 |
弁護士会基準 |
原則150万円( 下回る時は実費 ) |
2) 死亡による逸失利益
年収×生活費控除率を減算×ライプニッツ係数
ここでいう年収は、前年分の収入 ( 税抜き前 ) が基本です。
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◇給与所得者の死亡時「 遺失利益 」の計算方法◇
● ケース1 被害者 会社員 45歳 男性 妻と子供2人扶養 年間所得600万円の場合 |
①600万円×②( 1-0.3 )×③13.163
① 年収
② 一家の支柱で、一家の被扶養が2人以上の生活費控除率
③ 就労可能年数22年 ( 67歳-45歳 )の係数
逸失利益 5528万4600円
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◇専業主婦死亡時「 逸失利益 」の計算方法◇
● ケ-ス2 被害者 主婦 35歳 女性 夫と子供1人 収入無しの場合 |
①353万9300円×②( 1-0.3 )×③15.803
① 平成25年 賃金センサス女子労働者全年令平均賃金
② 生活控除率
③ 就労可能年数32年の係数
逸失利益 3915万2090円
実際の収入がなくても「 家事労働 」そのものに経済的価値があると認められているためです。
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3)慰謝料
傷害や後遺症と同じく、ある程度定額化されています。
◇自賠責基準◇
● 死亡慰謝料:自賠責保険 2020年4月改正
死亡した本人 |
400万円 |
請求権者1名の場合 |
本人分に550万円を加算 |
請求権者3名以上の場合 |
本人分に950万円を加算 |
請求権者とは 死亡した本人の父母、配偶者、子供またはそれに準ずる者のことです
◇弁護士基準◇
定額化されていますが、一応の目安です。
● 死亡慰謝料:弁護士会基準
一家の支柱 |
2800万円 |
母親・配偶者 |
2400万円 |
その他 |
2000~2200万円 |
一家の支柱とは「 当該被害者の世帯が、主として被害者の収入によって生計を維持している場合 」です。一般的には父親ですが、シングルマザ-の家庭は母親になります。
例えば、祖母がお母さん代わりの状況ならば、母親として認められる可能性もあります。
その他は、養子、認知した子供も含みます。胎児の死産の慰謝料は基準化されていませんが、請求は可能です。
● ケ-ス1のサラリ-マン45歳男性の死亡による損害賠償額の合計は? |
葬儀費用100万円、逸失利益5528万4600円、慰謝料2800万円の合計8428万4688円が請求できる死亡における賠償請求額になります。
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自賠責保険と任意保険の関係 その①
任意保険 |
2F |
自賠責保険で足りない金額を補填 |
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自賠責保険 |
1F |
傷 害 |
120万円まで |
死 亡 |
3000万円まで |
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後遺障害 |
4000万円まで |
重度の怪我を負い、治療費300万円かかった場合
自賠責保険から120万円、残りは相手の対人賠償保険から180万円を請求できます。
治療費の他に、
傷害の120万円の内訳は、看護料・通院交通費・諸雑費・義肢・松葉杖などの費用
診断書費・休業保険・文書料( 印鑑証明書・住民票など )そして、慰謝料です。
実際、相手の任意保険会社に対して、一括で300万円を請求し、その保険会社はその後、自賠責保険に120万円を請求します。( 任意一括方式 )
賠償のしくみ( 賠償の考え方 )
事故の損害額合計
任意保険 |
自賠責でまかなえない部分をカバー( あくまでも任意で加入 )
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自賠責 |
法律によって加入が義務付けられている強制保険人身事故のみ補償 |
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自賠責保険と任意保険の関係 その②
自賠責保険は、道路を走行する車すべてに強制的な加入が義務付けられています。
ただ、補償が薄いので、万が一に保険金限度額を超えた場合は実費負担となり、それをカバーするのが任意保険です。
自賠責保険 |
項目 |
任意保険 |
法律によって車輌所有の加入が義務付けられている |
加入義務 |
車輌所有者の任意によって加入 |
対人賠償のみ |
補償の範囲 |
商品によって、交通事故全般の損害を補償できる |
被害者の最低限の補償を確保 |
補償の意味 |
自分で選択できる |
自賠責保険に加入している保険会社 |
請求先 |
加害者、または加害者の加入する保険会社 |
示談は自分で行う |
示談交渉 |
保険によって示談代行サービスがある |
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損害賠償請求権者の請求権( 対人保険 対物 保険共通 )
交通事故による損害の賠償を請求できる相手は、加害車両の運転者だけではありません。
相手自動車が会社の所有物で業務中ならば、運転手の雇用主に対して賠償請求はできます。
加害者に損害賠償請求できる法律
1 |
事故を起こした加害車両の運転手 |
不法行為責任 |
民法709条 |
2 |
事故を起こした運転者の使用者 |
使用者責任 |
民法715条 |
3 |
事故を起こした車を所有または使用する権利をもつ人、それによって利益を得る人 |
運行供用者責任 |
自賠法3条 |
もしも加害者が事故で死亡した場合は、その相続人に損害賠償責任も引き継がれます。
運行供用者とは概念が定まりにくく、その都度判決により決まることがあるようです。
損害賠償請求権の時効
民法に照らした場合
・ 損害の事実と加害者がわかった時より3年間
・ 加害者不明のときは20年間
自賠法に照らした場合
・ 事故日翌日から 3年間
・ 死亡の場合は 死亡日から3年間
・ 後遺障害事故の場合は 症状固定時から3年間